行き先もなにも聞かないまま、知人の車に同乗して、キャンプに行く。
後部座席でウトウトしているうち、 「着いたよ」 と言われて車を降りると、そこは、どこかの藪の中。まずここで、山菜を採るという。
これがワラビだよ、あれがタラの芽だよ、と教えてもらって、ほんの三十分ばかりで、ほら、こんなに。
そこからまたしばらく走り、着いた先はキャンプ場でもなんでもなく、土肥の漁港。
ここにテントを張って泊まっちゃうのだという。もちろん、タダ。近くにスーパーもあるし、小さいながら温泉もあって、こりゃ、いいや。
さっそく乾杯をして、飲んで、食べて、それから少し散歩して、帰ってきてまた飲んで、あとは土肥の熱めの湯に浸かって、ぐっすりと眠る。
翌朝。トンビの声に起される。
山ではウグイスもしきりに鳴いて、町の方からは風に乗って、かすかにラジオ体操の音が聞こえてくる。じつに穏やかな、漁港の朝の風景である。
朝飯は、昨日採った山菜。
あくを抜き、さっと湯がいたワラビと、タラの芽の天ぷら。これを、熱いうどんにのせて食べる。旨い。
腹一杯で、しばらく休んでから、テントをたたみ、出発。
函南まで走り、露天から富士山を一望できる広くてきれいな温泉施設で、ひと風呂浴びて、帰路につく。
大きな渋滞に巻き込まれることもなく、三時過ぎには家に着いたのだが、じつはこのあと、夕方からひと仕事あって、会社に行き、納品をひとつ済ませてくる。
せっかくの休日気分に水を差されたようなかたちだが、まあ、いろいろな意味で充実しているのだと思うことにする。
夜は家で、筍と山菜をつまみながら缶ビールを飲み、いつもより少しはやく寝る。