大根が安かったので、丸々二本、買ってきた。
この時期の大根など、どうやったってうまいのだから、食べ方には困らないのだが、今回は、ちと、やってみたい料理法があった。
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岡本弥助は、雨戸を打つ冬の風音に聞き入った。
その横顔が、妙に老け込んで見えた。
(旦那の、こんなにさびしげな顔を、見たことがねえ)
と、伊之吉はおもった。
「ねえ、旦那……旦那」
「う……何だ?」
「どうなすったのだ、そんなに、なさけねえ顔をして……」
「なさけない顔をしていたか?」
「いましたとも。さ、のみましょう。今夜は、おもいきってのみましょう」
「む……そうするか」
「よしきた」
伊之吉は階下へ飛んで行き、酒の仕度をして、もどって来た。
「ねえ、旦那。下で、こんなものをよこしましたぜ」
鍋に張った出汁の中に、大根と油揚げが入っており、これに山椒を振って、熱々のところを食べる。
伊之吉は、鍋を火鉢にかけ、
「寒い晩には、こんな、つまらねえものが旨えのさ」
つぶやきながら、まめまめしくうごいた。
池波正太郎 〔黒白〕 より
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小説の中で、こう書かれているだけで、調理法が載っているわけではないのだが、なに、むずかしく考えることはない。
ああ、うまい。なるほど、ここに山椒を振る、というのが “妙味”ってやつなんだな。
他に、細く刻んで、塩昆布、鷹の爪と和えてみたり、
市販の麻婆豆腐の素を絡めてみたり。
ビールに良し、日本酒に良し。まさに、冬の醍醐味であります。