朝。コーヒーに、砂糖と間違えて塩を入れてしまう。一瞬 「あ・・・」 と思ったけれど、誰かが、どこかで、塩コーヒーは 「意外と旨い」 と言っていたのを聞いたことがあるような気がして、試しに一口だけ飲んでみる。
で、捨てる。
隠し味程度ならいざ知らず、砂糖のつもりでスプーン一杯の塩を入れちゃったんだ。旨いわけないでしょ。ちょっと考えりゃ判りそうなもんじゃないか。
*
ミセスが退職したのを知って、友人たちが祝って (?) くれる。昼前に上野に集合し、〔ラ ココリコ〕 という店で、旨いチキンとビールを食べて飲む。それから駅前の喫茶店に移り、コーヒーをすすりながらしばらくお喋りをして、まだ明るいうちに、解散。
でもまだ帰らない。
せっかく上野まで出てきたんだから、すこしぶらついて、
鈴本の、夜の部へ。〔権太楼噺 爆笑十夜〕 と銘打った、ゴールデンウィークの特別興行。
我太楼 〔新聞記事〕・・・前座なしで、開口一番。ソツなくこなす、という感じではあったけれど、会場はしっかり温めた。
翁家社中 〔太神楽曲芸〕・・・四角い升が傘の上でまわる時のあの音、いつ聞いても心地いいねえ。いかにも 「寄席の音」 という感じがして、大好きだ。
馬玉 〔湯屋番〕・・・ちょいと高音だが、聴きやすい、いい声をしている。耳に言葉がスラスラッと入ってくる。その声と、若旦那の軽薄さとが、またぴったり。
扇遊 〔たらちね〕・・・市馬の代演。正直に言うと、最近の市馬だったら、扇遊の高座を見られたことの方が、ずっとウレシイな。ここだけの話ね。
ホンキートンク 〔漫才〕・・・どっかんどっかんという感じで受けていた。いや、実際おもしろかった。
さん喬 〔初天神〕・・・軽い噺を軽くやって、ちゃんと可笑しいということは、やっぱりスゴイことなんだなと思う。
一朝 〔天災〕・・・ノリに乗っているという感じの高座。この人の威勢のいい啖呵をきいていると、よく効く胃薬みたいに、胸がスッとする。
小菊 〔粋曲〕・・・どこからくるのか、年齢不詳のこの色香。艶。粋。
甚語楼 〔犬の目〕・・・ナンセンスもいいところという噺だが、眼科のセンセイを “冗談好き” という設定にして虚実を入り混ぜ、意外と現実感をもって演じていた。
正楽 〔紙切り〕・・・この人は、ごまかさない。「よく知らないけれど・・・」 とボヤきつつ、正攻法で “ダースベイダー” を切り抜いてみせた。ちゃんとダースベイダーのテーマを奏でていたお囃子さんにも、拍手。他に、“相合傘”“大谷翔平”“鯉のぼり”。
権太楼 〔質屋庫〕・・・ネタ自体は、さほどよくできた噺とも思えないのだが、権太楼は喋って喋って喋り倒して、力業で客席を笑いの渦に巻き込んでゆく。
前半こそ、クスクス笑いがときどき起こる程度だったが、中盤、小僧が出てくるあたりから、タガがはずれたように爆笑が起こり始め、そこから最後までは一気呵成。演る方も観る方も、会場全体が陶酔するような感じになってきた。
〔爆笑十夜〕 の名にふさわしい権太楼ワールドを堪能して、帰る。