その店は、おもにオフィス街のサラリーマンを相手に商売しているから、土日祝日は基本的にお休みで、それでなかなか訪れる機会がなかったのだが、ダメもとで年始の予定を聞いてみたら、四日は営業しているという。
ミセスが、どうしてもそこの “揚げ焼きそば” の味が忘れられないと言うので、それを食べるためだけに田町まで出向く。
ミセスは以前、田町に勤務していたことがあって、ランチなどでよく利用していたらしい。辞めた会社に未練はないが、この店のこの味には未練たらたらで、ことあるごとに 「行きたい―、食べたい―」 と漏らしていた。
駅から歩くこと十分。なんてことない、街の中華屋である。店の名を 〔綿徳 (わたとく)〕 という。
席に着き、まずは瓶ビールに餃子でも頼もうかと思ったのだが、ミセスに止められる。ここは、働く人たちがスッと入ってパッと食べてサッと勘定を払って出てゆくような店なので、あまり長く席を独占してはいけない。
なるほど。では、ここは忠告と欲求との間をとって、生ビール一杯だけにしておく。
そして、運ばれてきた “揚げ焼きそば” を見て、別の意味で餃子を頼まなくて良かったと思う。ボリューム満点なのだ。餃子とビールのあとでは、腹に収まらなかったかもしれない。
味は文句なし。最初の一口で 「うまい!」 と感じて、あとは夢中。気がついたら皿がきれいになっていた。
増上寺を通って、東京タワーを見物して、さあ、帰りは浜松町から電車に乗ろうと駅へ向かって歩いていたら、文化放送の前で局のスタッフに呼び止められた。生放送中の 『大竹まこと ゴールデンラジオ』 の中継コーナーに出てくれないかと言われ、今をときめくお笑いコンビのカミナリさんと、五分ほどやり取りをさせてもらう。
じつは、いつも営業車の中で聞いている番組だったのでことさら嬉しく、帰りの電車の中でも何となくニヤニヤしっぱなしだった。
さて、正月休みは今日で終わりだが、明日一日出社したら、また三連休。もうしばらく浮かれ気分でいさせて。