ミセスが、だいぶくたびれてきている。
仕事が忙しすぎるのだ。
胡乱亭が勤めている個人商店に毛の生えたような小さな会社と違って、ミセスが働いているのは、東京駅の目の前のビルにオフィスを構える立派な会社で、もちろん残業代は支払われているし、就労時間が長すぎる社員には、ちゃんと産業医が面談をして、話を聞いてくれる。社内の人間関係も悪くない。いわゆる “ブラック企業” ではないと思うのだが、人手不足か、連携が上手くいっていないのか、おそらくその両方なのだろうが、とにかく、仕事量の増加に伴い、夜の11時12時に帰宅というのが、ここ半年ほど続いている。
愚痴が多くなり、その言葉の端々に、SOSが見えたような気がした。
見かねて、「無理するな。辞めてもいいんだよ」 と、ちょっと背中を押してあげたら、さっそく会社にその旨を伝え、ゴールデンウィーク前に退社することが決まった。
世間では、「働き方改革」 やら、「女性が輝く社会」 やら、耳当たりの好い言葉ばかりが飛び交っているけれど、現実は、これだ。
このご時世に、正社員の職を辞するというのは大きなリスクだし、家計の収入が一人分減るというのも不安要素ではあるのだが、なによりも、彼女の心がどんどん鉛色になってゆくのを見ているのが、つらい。
うちのミセスが輝くためには、まず、いまの会社を辞めることだと判断した。
ただ待っていても、政治や世間が何とかしてくれるわけじゃない。いつも書いているけれど、自分の半径百メートル範囲の生活は、自分で守っていかないと、ね。