野毛の 〔弥平〕 という居酒屋のカウンターで、隣に座っていた若いカップル。
刺身の盛り合わせやら、唐揚げやら、サラダやら、たくさん頼んでおきながら、それらに一向に箸をつけようとせず、なにやら話に夢中の様子。
赤の他人のテーブルのことなど、どうでもいいように思うのだが、一度気にし始めると、気になっちゃう。ほらほら、せっかくおいしい刺身が乾いちゃうよ。
下世話なこったと思いながらも、ちらちらと横目で見つつ聞き耳をたてていると、どうやらその二人、今夜が初デートらしい。互いに気を使って先に箸をつけるのをためらっているのか、それとも、話をしている時間が楽しくて仕方がないのか。
事情がわかればわかったで、なんだかその初々しさが好ましく思えてきて、しばらくそんな二人の会話を聞くともなしに聞きながら、酒を飲んでいた。
*
連休のうちに、一度は寄席へも行っとかなくちゃ。
そう思って、急きょチケットをとって 〔にぎわい座〕 へ。
緑太 〔やかん〕
小泉ポロン 〔奇術〕
楽輔 〔火焔太鼓〕
~仲入り~
遊馬 〔牛ほめ〕
ロケット団 〔漫才〕
権太楼 〔猫の災難〕
正月興行ながら、各人たっぷり時間をとって、きっちり噺を聞かせてくれる。明るく賑々しい、いかにも初席らしい高座が続き、笑いも多く、会場は春が来たように暖まる。
権太楼の、じつに旨そうに酒を飲む仕草を見せつけられたあとで外に出ると、そこは野毛の飲み屋街。もう、何から何までレールが敷かれているというわけ。
ど・こ・に・し・よ・う・か・な、としばらく歩き回って、見当をつけて飛び込んだのが、冒頭の 〔弥平〕。
結局その後、こっちがお会計をしようかなという頃になって、ようやく女の子がひときれ、ぶりの刺身をつまんだのを見届け、何故だかホッとして、店を出る。