岡田准一が良かった。
岡田准一だけが良かったと言っていい。
かつて黒澤明の下で撮影助手を務めていた木村大作が、御歳七十九にして初めて時代劇を撮ったというので、大いに期待をして行ったのだが、ときどきハッとするような映像美はみせてくれるものの、残念ながらやはりこの人はカメラマンであり、演出家ではないことが判ってしまった。
そもそも、小泉堯史による脚本がよくない。この人も黒澤組に長く居た人だが、どうしたことだろう。全く練られた様子がなく、原作にある文言をそのまま流し込んでいるだけで、セリフが “言葉” にすらなっていない。
どこかで聞いたことのあるようなお家騒動と、どこかで見たことのあるようなキャラクターばかりで、それを演じる俳優たちの演技も、一本調子でメリハリがない。
監督はさらに凡庸だ。
登場人物の一人など、討たれて死ぬ直前にコトの真相をペラペラと喋りはじめ、喋り終わった途端、ガクッと死ぬ。とても黒澤組で働いていた人とは思えない、残念な演出ではないか。
しかしそんな数々の不満も、岡田准一の存在ひとつで、すべて帳消し。ただ黙って立っている、その立ち姿から漂う男の色気に、僕はすっかり魅了されてしまった。
スーッと刀を構えたときに放つ殺気。静から動へ転ずるときの、呼吸、スピード。殺陣は荒々しく、それでいて “型” の美しさが乱れない。斬ったあとの “残心” の表情も、じつに艶っぽい。稀有な時代劇スターと言えよう。
画になる男が一人いるだけで、作品が一本成り立ってしまう。
それも映画の面白いところだ。
*
本当はこの土日のどちらかで観に行こうと思っていたのだが、台風が近づいてきているようなので、昨日の夜、仕事がえりに観てきた。
週末は、家でおとなしくダラダラしていることにする。