目を覆いたくなるような児童売買春と臓器売買の世界。この映画が、どこまでその実態に迫り得ているのかは知る由もないが、少なくとも、これがどこか遠い国の話ではなく、日本と日本人も、罪の意識のないままに “加害者” として関わっているのだということを目の当たりにさせられ、慄然とする。
甘いセンチメンタリズムを排した硬派な演出からは、この唾棄すべき現実を世に知らしめなければならないという、湧き上がる衝動に突き動かされた、阪本順治監督をはじめ、スタッフ・キャストたちの、“本気” が感じられた。
その趣旨、完成度ともに立派な作品ではあるが、正直、こんなに辛い映画は、二度と観たくないとも思う。
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映画まで少し時間があったので、本屋をぶらぶらしていて、たまたま目についた、「いぶき亭」 という料理エッセイを買う。サブタイトルに 「大臣のこだわり手料理」 とある。著者は、伊吹文明。
そう、おとといまでの自民党幹事長、現・財務大臣である。
失礼ながら、伊吹文明という人が、政治家として何を成したのかということについては、よく知らない。テレビに映る時はいつも、眠そうな仏頂面をしていて、あまりいい印象ではなかったのだが。
ところが、この本を読んで、見方が変わった。
忙しい政務の合間を縫って自ら包丁を握り、嬉々として酒の肴を作っている様子が、なんとも微笑ましい。
政治家=高級料亭のイメージを覆す、男の手料理の数々は、どれも一般家庭の冷蔵庫にあるもので出来る簡単なものばかり。
『カレーライスにソースを少々たらすと、これがまた旨い』 なんて、さらっと書いてあったりして、僕は自民党員でも何でもないけれど、この伊吹さんという仏頂面の政治家に、急にちょっと、興味と親しみが湧いてきた。